インタビュー

INTERVIEW

瀬戸勇次郎選手のインタビュー時に話している様子

瀬戸 勇次郎(せと ゆうじろう)

柔道は4歳から始めました。先天性の視覚障害で生まれつき視力は0.1ぐらいでしたが、その頃は周りとの視覚の違いが分からなかったこともあり、中学校、高校時代も特に何事もなく見える人たちと一緒に柔道を部活で行っていました。

組手争いは下手だったので、それは見えないからなのか、単純に自分が下手だったのか比べようがなかったので、分からないまま柔道を行っていましたね。

視覚障害者柔道を始めたのは2017年の高校3年生(17歳)の時からです。視覚障害者柔道に転向し組み合って始めるという柔道に最初は、これまでの柔道とは全然別物だと思いました。力の入れ方の違い、間合いの違い、得意な背負い投げの技の入り方もすべて違ってきました。

初めて日本一を獲得(全日本で優勝)したのは2018年の年末で、国際大会に出始めたのが2019年に入ってからです。

視覚障害者柔道に転向した後、それほどたくさん国際大会を経験することなく、東京パラリンピックに出場することになりましたが、もちろん緊張はしましたね[笑]それまではパラリンピックも普通の大会と同じように普通に柔道の試合をするものだと思っていましたが、やっぱり全く違う雰囲気がありましたね。今まで目標としてやってきた大会でもありますし、臨む時の気持ちはこれまでと違いましたね。

初のパラリンピック大会で銅メダルが獲れたので自分としては嬉しいですが、満足はなく、次のパリパラリンピックでは金メダルを目指しています。まずはパリパラリンピックに選考されることを考え、以前と比べると厳しい稽古、節制した私生活を送り柔道漬けの日々です。

瀬戸 勇次郎選手が試合で技をかけ相手選手を抑えこんでいる様子

柔道は一発勝負で決まってしまう競技なので、その試合の為に一人で練習している時ですね。いまはパリパラリンピックに向けて猛練習をしているので、道場での稽古もフィジカルトレーニングも食事管理も一段とギアを上げていて毎日がきついです[笑]

以前試合に負けた時には、自分の中に違和感があって、消化できなかった時などもありました。メンタル面で色々と監督コーチや先輩から指導を受けたこともありました。特にいまは国際大会で優勝したこともあり、負けられないプレッシャーが強いです。

結局のところ試合までにどれだけ稽古をしているかだと思うんですよね。自分の中でどうやったら勝てるのか、イメージしておくこと、あとは負けた時にどういう言い訳を考えてしておくかも一つですかね[笑]

最近は試合前にあまり神妙になりすぎないということにも気をつけています。試合前はどうしても内向きに考えてしまうので、チーム内での会話をするようにしたり、その場を楽しんで緊張をほぐしています。以前と比べて人と話すように行動したりしていますね。

瀬戸勇次郎選手が試合前に目を瞑って集中している様子

点字や拡大字もそうですが、障害の程度は人それぞれ違っていて、求めているものも違うものなんですよね。かつ、出来ることも障害者ごとにそれぞれ違うんです。視覚障害者だからこれは出来ないはずだと思われることは結構あって、例えば自転車です。視覚障害者でも自転車は乗れるんですよ。中には「実際は見えているのではないですか?」と聞く人がいるのですが、目が見えないように見せているのでは?という思いにはがっかりします。

それは「視覚障害者はこんなことは出来ないはず」と固定観念があったり、「実は見えているのでは?」と疑っている人がいるということは悲しいときがありますね。特に自分は周りの人の目が気になるんですよね。コンビニで買い物をする時も晴眼者らしく振舞ったりもします。ただ文字が見えにくいので、物を顔にかなり近づけて見るんですが、周りの人からみたら奇妙な人だと思われるんじゃないかなとか気にしてしまうんです。かといって、白杖を持つほどの障害ではないんです。

ですから、普段は白杖は持たないですし、白杖は視覚障害者のシンボルにはなりますが、白杖を持つことで片手がふさがったり、自分が視覚障害者として受け入れてはいるものの、白杖を持つことに心理的なハードルがあるのかなと思ったりします。全盲や弱視の人、視野が狭い人など、白杖を持たないまでも視覚に障害がある人への理解が深まるといいなと思っています。

パリパラリンピックでの金メダル以外ないですね。目標にするのはそこしかあり得ないですね。東京パラは銅メダルで、その後の国際大会では優勝できたので、もちろん金メダルですね。

世界で対等以上にフィジカルを鍛えられれば、少なくともその状態であれば、今の階級の中で自分は勝てる自信はありますね。特に2023年の8月の敗戦は自分自身に大きな影響を与えました。

色々なやりたいことや好きなものを辛抱して後回しにすること。柔道に打ち込む気持ちを高め、一層と強い覚悟で臨みたいという心境になりました。前回大会では自分のランキングも低かったし、開催枠ということで出場して銅メダルで終えましたが、運も良かったですし、よく戦ったなと思える大会でした。

今回は十分に金メダルに届く位置にいますし、獲らなければいけない立場にいると思っているので、次のパラリンピックへの臨み方、心境も前回とは全く違いますね。さっきも言いましたが、いまは国際大会で優勝したことで、負けられないプレッシャーが強いですし、そのプレッシャーの中で一層と厳しく稽古し、日常生活から見直してやってきたので、パリパラリンピックで金メダルを獲るという気持ちも一層と強くなっています。

瀬戸 勇次郎選手が世界大会で金メダルを授与されている様子

大会に派遣して頂いて大会での結果を自分で獲りにいって、その結果があるかと言って何か見返りがあるかというと、これまでの過程も含めて、釣り合うだけの見返りはないとは思うんですよね。

柔道だけで食べていけるとは思わないけど、好きだからやっているわけですからね。言い方が難しいですけど、勝利したとき、特に大きな大会でメダルを獲ったときは評価はして欲しいなと思うことがありますね。柔道で金メダルを取れたからと言って、目の前に機会が巡ってくるとは思わないので、自分で機会を作らなければならないですし、キャリアを積んでいかなければならないですよね。特に日本は競技レベルは上がっているのに、パラ競技の立ち位置がなかなか上がらないんですよね。

欧州の中にはパラリンピック競技とオリンピック競技は同じ地位で行っていたり、スポーツの生活との関係が深いなと思っていて、一方で日本は競技に人生全てをかけたとしても、活躍しても評価されることは小さく感じたり、引退後を保証されるわけでもないですからね。障害に関わらずスポーツ自体の価値が低いことに課題を感じています。

自分自身も柔道をやっていて目標や目的がわからなくなったりすることもあります。稽古をしていて、そんなネガティブな考えになることもありますが、自分ががんばる姿、闘う姿を見て誰かが元気になってくれると思うことでがんばれていますね。自分も応援する側の場合はハラハラしていますし、やはり人はがんばっている人を応援したくなるものなんだなと思います。

いまは大学院に通っていますが、卒業後のキャリアは色々と考えますね。パリパラリンピックがあるので、いまは柔道に集中していますが、普段は柔道にだけに全て傾けるわけではないんですよね。大学院での勉強もそうですし、将来はやりたいことも色々あるので。

(そのやりたいことは?)卒業後はもちろん柔道にも関わっていきたいとは思いますが、体育教員として働きたいと思っています。教育やスポーツに関わる仕事がしたいと思っています。今は大学院で学びながら、学校や柔道で人脈を作ったり、その準備をすすめているところです。

やはりこれからは若い人達が視覚障害者柔道に挑戦してくれることを期待していますね。選手が少ないのでもっと増えてほしいです。視覚障害者柔道というのは、晴眼者の人たちと一緒にできること、ここがすごく魅力だと思います。

視覚障害者同士でやるのもいいですし、晴眼者の中に入って一緒にやっていくことが出来る競技であって、色々なタイプの稽古をやっていくことで競技力が上がってくると思っています。

あとは柔道を通してできた仲間や友達は、経験上、強い絆も得ることが出来ることは大きいですよね。特に視覚障害者の方は運動をする機会も少なくなってきがちなので、何か一つでもスポーツをやるコミュニティに属していることは、人生に大きなアドバンテージになると思います。

仲間作りとしてだったり、自分自身の身体や心を鍛える場としても、目的は人それぞれでいいんです。何かしようと迷っている方や探している方は特に、柔道を選んでくれたらいいなと思っています。

瀬戸勇次郎選手のインタビューを終えて談笑している様子