–柔道との出会いを教えて下さい。
2つ上の兄が柔道していたことがきっかけで、中学1年生から中学の柔道部に入部しました。弱視でしたが晴眼者のメンバと一緒に柔道を始めました。
みんなと同じように部活動がしたくて、「兄にできるなら私にだってできるだろう」と、少し生意気な気持ちもありつつ[笑]、どうにかなるだろうという消去法的な選択でした。
–いつから視覚障害者柔道を始めたんですか?
中学校、高校は晴眼者のみんなと一緒に柔道部に所属していました。筑波技術大学へ進学後に1つ上の先輩に誘われ、大学1年生時に視覚障害者柔道に転向しました。
転向して初めて出場した試合が国際大会の代表選考会でした。そこで戦った感想としては世界トップが意外にも身近にあることを実感し、この視覚障害者柔道で世界を目指してみたいと強く思いました。
–柔道をはじめて自分が変わったことはありますか?
子供の頃に出来なかった他のスポーツにも挑戦してみようという「挑戦」する機会が増えました。
大学卒業後にはブラインドサッカー、トライアスロン、クロスカントリースキー、サーフィンに挑戦しました。サーフィンではまだライディングまではできませんが、やっていて楽しいです[笑]
柔道を通してトップを目指すことで、体力に自信がついたり、挑戦しても大丈夫という挑戦することへの恐怖心がなくなり、自分の自信に変わり、いろいろなことへ挑戦したくなる今の自分に行きついていると思います。
–柔道をしていてきついと思う時はどんな時ですか?
思い通りにいかない時ですね。相手の動きをコントロールできなかったり、自分の体を上手くコントロールできなかったり、自分の理想とする柔道が思い通りに出来ない時に思います。自分の体をコントロールできない時は、指導者の教えてくれることが理解できなくて相手を崩したり、投げたり、寝技の動きなど倒すための動きに近づけないときや、緊張から集中できなかったり、体が硬くなってしまった時ですね。
–試合のときのルーティンや過ごし方はありますか?
少しわかりにくいかもしれませんが、「意識することを意識する」、これを自分のテーマで行っています。試合前には手先、足先、重心の位置、腹筋など意識出来るようにするために、「内側に意識を向けていく」「いらないものを削いでいく」という作業をいろいろ行って、ルーティンとしています。
(うまくできていますか?)これがすべて上手くできたら優勝に近づけると思いますが難しいです[笑]メンタル的な部分は最後に意識することにしています。パフォーマンスで「行けてない」「出せていない」、そのような時は何か違う物理的な要因があるからと感じています。そこは追求する必要があると思い日々練習しています。
–日常生活の中で困っていることを教えてください。
情報障害は視覚障害とセットで、今も昔も変わらないと思います。世の中では他人の手を借りないようにという方向に世界は進んでいますが、その世界が楽になる、便利になると同時に視覚障害者は視覚から情報が得られないことが多くなり、置いて行かれている気がしています。特に手触りの感覚を感じないタッチパネルです。
デジタルは便利なのですが、思うように使えるまで結構な時間がかかり、晴眼者にとってたくさんの便利な機能が多くなるほど、その機能を理解して操作することが大変です。また視覚障害者たちが使いやすいように作ってくれたアプリでも、途中で使うことを諦めてしまい使っていないことがあります。なので、世の中が便利になることやデジタルだったり日常の生活環境などが大きく変化する中でも、誰もが取り残さないインクルーシブな社会になって欲しいなと思っています。
–柔道における目標を教えてください。
柔道が出来ないほどの膝のケガからリハビリなど行い、2022年に復帰しました。2年間、柔道が出来ないというブランクを経験しました。2年間という期間から焦りがありましたが、怪我したからこそ見えたものもとても多く、先に進む原動力になりました。
いまはその経験から目標は「強くなること」です。
感覚的なことなのですが自分の言葉で表現すると、「力の通り道が見えるようになりたい。」ということです。相手の動き(重心の位置、どう動くのか、どう動きたいのか)を相手の息遣い、顔の向き、相手の右手、左手が自分の柔道衣を握る力の通り道、そして右足、左足の位置などを全て感じとって相手がどう動きたいのかを予測して技に入る。技をかける瞬間を自分で見極め技に入れる柔道がしたと思っています。
–引退後の目標や考えていることはありますか?
引退後を見据え、在学中に理学療法士資格を取得し、他にも鍼灸師やマッサージの国家資格を取得しました。現在は、会社の通常勤務の際にはヘルスキーパーとして働くこともあったので、いろいろな人と話が出来て、いろいろな人との状態を触れる楽しさもありますね。それと同時に難しさもありますが[笑]
これまで鍼灸もたくさん勉強してきていますが、これからも勉強する必要はありますし、やらなくなったら出来なくなるものでもあると思っています。技術を磨き続けることはスポーツに通じるもがあると思います。
わたしは言語化が好きなので、見えない人、見えにくい人の為に動きの言語化、運動学習の為の手引書などができたらと考えてます。運動の捉え方は人によって違うこともあり、その意味では触り方とか盲学校でやっているような触らせ方、触り方や学び方をもう少し深堀出来たらいいなと考えています。
言語化は元々持っている資格を活かせることもあり、出来事や思ったことなどを記録に残すことは継続してやっていこうと思います。
–視覚障害のあるお子様へメッセージをお願いします。
わたしは柔道をやっていて楽しいです。スポーツや体を動かすことはみんな楽しいと思います。そのスポーツする場面や日常生活の中で視覚障害者は転倒することも多く、転んで怪我をしない為にも柔道で受け身を学ぶことはとても良いことだと思います。そしてもっと柔道をやってみたい。柔道って楽しいと思った時に視覚障害者柔道を始めてもよいのではないかと思います。
スポーツや体を動かすことに対して、先天的な視覚障害のある人には壁があります。その子供たちが柔道を始められるような機会や環境、大会などがあればより良いと思います。